しげるは広島に生まれ育った少年。その頃、日本はよその国と戦争をしていた。姉の泰子は女学生だが、学徒動員として軍需工場で働いていた。そんな姉弟を優しく見守る母。暮らしはけっして豊かではなかったが、母子三人、幸せな毎日だった。
ある夏の朝、しげるは、姉のところへお弁当を届けに行くため、母と一緒に出かけた。産業奨励館の前に来たとき、母は言った。
「ここで待っときんさいよ。絶対にここを動いちゃいけんよ」
「うん。お母ちゃん、はよう戻ってきてよ!」
しげるは母の言いつけを守った。
そして、1945年8月6日午前8時15分。運命のときが訪れた―――。